木蘭さんの「書く習慣」

アプリ「書く習慣」で書いた文章や日々の書写など

お題:透明な水

「透明な水 イラスト」とネットで調べると、検索画面は濃淡取り混ぜた青色で溢れていた。

「じゃあ「透明」っていったい何なんだよ?」と、デザイナーの小橋は思う。もともと作品制作のための参考資料として調べていたのだが、もはや作品そっちのけで「透明=青?」の件が気になって仕方がない。

「先輩、買い出し行きますけど何かありますか?」

突然、後輩の陰山が声をかけてきた。彼は、周りの誰かが煮詰まっていそうだと見るやいなや、そのフットワークの軽さを活かして買い出しの御用聞きにやってくる。仕事も早いし、気遣いもできる良き後輩だ。

「あ〜、そうだなぁ。透明な水、じゃなくて透明な麦茶頼むわ」

「は? 透明な麦茶って何すか、それ⁈」

「いや、水ってさ。透明だけど、絵で描くときは青く塗ったりするじゃん。麦茶だって一見茶色く見えるけど、実は透明なんじゃないかなぁって」

「…わかりました。先輩、そんな意味不明なことを口走るほど疲れてるんですね。なおかつ、麦茶が欲しいと。はいっ、行ってきます‼︎」

そう言うと、陰山は外へ駆け出して行った。

たしかに、冷静に考えると「透明な麦茶」なんてあるのだろうか。わけがわからない。でも、透明な水に麦茶のパックを入れて茶色くなっていく。元を正せば水も麦茶も皆同じなのだから、透明でもおかしくないんじゃないか。

って、この考え方がもう意味不明だよなぁ…と小橋の脳内が混沌としてきたころ、陰山が買い出しから戻ってきた。彼の両手には、他のメンバーからも頼まれたであろう、大量の飲食物が入ったコンビニ袋がぶら下がっている。

「はい先輩、ご注文の麦茶と、これ」

そう言って、彼は2本のペットボトルを小橋に差し出した。1本は明らかに麦茶だが、あと1本はミネラルウォーターのように見える。

「なぁ、この透明なの、何?」

「紅茶です、透明な紅茶。たまたま売ってたんで買ってみたんです」

透明な紅茶⁈

小橋は、ますますわけがわからなくなってきた。とりあえず、一口飲んでみる。たしかに、紅茶の味っぽい。今度は、目をつぶって飲んでみる。紅茶と言われれば紅茶の味だが、何か別の飲み物の味に似ているような気がしないでもない。

気を取り直して、麦茶を飲む。

うん、これはもう完璧に麦茶。見た目も味も100%麦茶だ。一口飲んだだけでホッとする、いつもの味にいつもの色だ。

「やっぱ、透明だと落ち着かないわ」

と言いながら、小橋はどちらも飲み干した。「さ〜て、やりますか」と大きく伸びをした彼の傍らには透明なペットボトルが2本キラキラと輝いていた。

 

追記:

透明な紅茶って、今も売ってるんでしょうか。たしか、透明な抹茶ラテというのもあったような…ちなみに、麦茶は私にとって日々欠かせない飲料水です。そろそろ1.5〜2.0Lくらい持ち歩かないと足りなくなる季節ですね。