木蘭さんの「書く習慣」

アプリ「書く習慣」で書いた文章や日々の書写など

お題:カラフル

駅前にある喫茶店「カラフル」は、私が小学生のときから通うお店だ。共働きの両親は、いつも帰りが遅かった。だから、いつも学校が終わって真っ直ぐ向かったのは我が家ではなくこの場所だった。

「いらっしゃい、ユミちゃん!」

いつも笑顔で迎えてくれるのは、りーちゃんこと律子さんとみーさんこと稔さんご夫婦。自分の親よりかなり年上の2人に

「りーちゃん、みーさん、ただいま‼︎」

と挨拶するのが私の日課だった。

「カラフル」はいわゆる純喫茶の風情があり、わざわざ遠方から訪れるお客様もいるほど人気のお店だった。そこに、パステルカラーのランドセルを傍らに置いた子どもがカウンターに1人座っている。なかなか奇妙だと思われるのだが、常連客にはおなじみの光景だった。

いつも必ず出してくれるのは、バニラ・チョコ・ストロベリーの3色アイスだった。

「いっつも思うけど、いっぺんに3つもアイスを食べられるなんてすっごく贅沢なメニューだよね」

口の周りを3色のアイスで彩られたまま、りーちゃんにこう言うと意外な答えがかえってきた。

「これね、ユミちゃんが作ったメニューなのよ」

え? どういうこと?
頭の中がはてなマークで一杯になっている私に、りーちゃんはこう続けた。

「それまでアイスクリームは単品で出していたんだけど、ご両親と一緒に来たあなたが『もっとたくさんアイス食べたい〜』って泣き出して。で、バニラアイスだけだったお皿にチョコとストロベリーのアイスをのせたら『うわぁ〜、カラフルだぁ〜』って大喜びしてくれて。それでこのメニューと今の店の名前が生まれたってわけ」

えぇっ⁉︎ お店の名前って、

最初からカラフルじゃなかったっけ?

「一番最初は「喫茶こーひー」。ひらがなの名前がいいかなってつけたんだけど、1ヶ月くらいでカラフルになったわね」

そりゃ、記憶に残ってないわけだ。でも、大切な店の名前をそんな出来事ひとつで変えてよかったの?

「変えるって言い出したのは、私じゃなくてみーさんよ。『ユミちゃんのあんな嬉しそうな顔を見てたら、そりゃ変えるしかないだろ』って」

みーさんの方を見ると、いつものように黙ってコーヒーを入れている。真剣な眼差しが一見怖そうだけど、ホントはとっても優しくて面白いおじさんだ。視線に気づいたのか、みーさんは私の方を向いてニッと笑ってくれた。

「ユミちゃんが大人になっても、カラフルはずっとカラフルだからね」

あの日、りーちゃんがそう言ってくれてから月日は流れ、いい歳になった私は今もカラフルに通い続けている。そして、「今日はコーヒー飲もうかな」と思いながらも、毎回あの3色アイスを頼んでしまうのだ。

 

追記:

登場する喫茶店のモデルとなるお店は、今でも親戚が営んでいます。昨今の純喫茶ブームもあり、お客様は微増しているそうで何よりです。もう何年も行けていませんが、また3色アイス出してほしいなぁ。あとコーヒーも♪