木蘭さんの「書く習慣」

アプリ「書く習慣」で書いた文章や日々の書写など

お題:ありがとう

あれは、高校1年生のとき。

 

日直だった僕は日誌を書き終え、担任だった先生に提出した。いつもなら「あぁ、ご苦労さん」で終わるのに、その日は日誌に目を通した先生が僕を呼びとめた。

 

「お前、ホント文章書くのが好きだよなぁ」

 

それは、感心しているというよりも半ば呆れたような口ぶりだった。

 

「いえ、特別好きというわけではありませんが…なぜですか?」

 

「お前が提出する行事ごとの感想文も日直のときの日誌も、やたら細かい字で枠内いっぱいに書いてくるじゃんか。他のやつはだいたい2、3行で片付けてるっていうのに。だから、こいつは書くことが好きなんだなぁって思ったんだが」

 

そのとき初めて、先生が僕に対して抱いている印象を知た。でも僕は、それを真っ向から否定した。

 

「それは、学校教育の弊害によるものです」

「弊害?」

「僕が通っていた小中学校では、テストの答案は「質より量」だと教えられました。たとえ正解がわからなくても、何かしら関連することを書いておけば部分点がもらえると言われて、それで…」

「なるほど、わかったよ。でもな、たとえそれが理由だったとしても、文章を書くことを嫌ってたらあれほどは書けないと思うんだ。実際、いつ読んでもお前の文章って面白いし」

 

自分の書いた文章が面白いなんて言われたのは、あの時が初めてだった。その後、僕は何となくその気になって自分なりの文章を書き続け、何となく送った文芸賞に入賞し、先生以外の人にも「この文章、面白いね」と言われる機会が少し増えた。

 

先生のあの一言がなかったら、僕は今も文章を書き続けることなどなかったし、自分の文章を多くの人に読んでもらうことなどなかったと思う。

 

先生、僕の文章の最初の読者は間違いなくあなたです。あのとき、僕を「書く」方へと導いてくださって本当にありがとうございました。

 

追記:

今回、正式なお題は【「ありがとう」そんな言葉を伝えたかった。その人のことを思い浮かべて、言葉を綴ってみて】でした。少々長かったので、表題はシンプルにしました。内容は、事実に基づくフィクションです。実際、この一言をいただいた私はブラスバンド部から文芸部へ転部した後、文芸コンクールや校内の読書感想文コンクールで賞をいただくことができました。今、このブログを書いているのも先生の一言があってこそ。世の中わからないものですね、先生。